Mathematica 基礎からの演習
『理系への数学』(現代数学社)
2001年11月号“ブックガイド”コーナーに掲載

 高校数学にコンピュータを利用しようとは良く言われ、カリキュラムの中にも選択としてコンピュータを扱う単元があるが、実際の授業ではほとんど取りあげられないのが現状である。一人ひとりが機器を利用した授業を行うとなれば、個別学習がスムーズに進められるソフトとテキストがなければならない。教師とすれば、一斉授業の比重が減る分、テキストに学習内容を委ねるわけであり、よほど効率的に進められる教材がなければおいそれと、ではコンピュータを使いましょうと言うわけにはいかない。
ソフトに関しては、Mathematicaという素晴らしい教材が出現した。生徒がMathematicaで数式を様々に変形し、時に視覚し、数学による多彩な表現を試みる中で得られるものは大変に大きいと思う。しかし、Mathematicaを高校数学の範囲で説明し、高校生が操作しながら使うに適した本が見あたらないのを歯がゆく思っていた。そんな折、出会えたのが本書である。本書は高知工業高等専門学校で教鞭をとる3人の著者によって作られ、教育の現場で培われたノウハウが実によく盛り込まれている。章立ては、第1章 Mathematica の基本操作 第2章 数と式の計算 第3章 計算の進め方 第4章 リスト・表の作成 第5章 グラフをかく(基本編) 第6章 グラフをかく(応用編) 第7章 方程式・不等式を解く 第8章 制御・反復命令 第9章 素数の逆数の循環節を調べる 第10章 微分・積分 第11章 行列・行列式 となっている。全体としては、前半でMathematicaの基本的なコマンドやリストの概念、グラフィックスを扱い、後半で数学の中身をより深めていく構成になっている。第9章はこの本の愁眉である。素数という身近な話題を使いながら、その逆数の循環節をMathematicaで具体的に調べていくのだが、その過程で読者は研究対象をMathematicaで探求する方法を体得することになる。第10章では複素数をまず導入し、微分・積分の計算の他に微分方程式、ラプラス変換、フーリエ級数も扱っている。行列・行列式では、固有値・固有ベクトル、線形写像、kernelとimageの次元など、大学教養課程レベルの内容も扱っており、大学生の演習書としても活用できる。後半は高校数学の範囲を超えているが、先を見せることも重要であり、意欲的な高校生にとってはよき刺激になるだろう。Mathematicaを使った本というと、関数を羅列してあるだけの本やプログラミングの手法に重きをおいた本が多いが、それでは授業に使うのは困難である。本書は、Mathematicaの基本を押さえつつも、数学の概念を習得させたいという主軸がはっきりとしているため、授業で利用すう目的にかなっている。また、丁寧な解説がなされているため、生徒が本書をもとにMathematicaを操作しながら進めることが可能である。重要な点は、Mathematicaの関数や文法と数学の諸概念が、本に沿って自然な形で身につけられる点である。各章ごとに導入があり、豊富な展開があり、まとめの練習問題がある。この流れが実にスムーズでしかもリズムをもっており心地よい。そして、それぞれの例題や練習問題では、著者たちの工夫が随所にみられ、数学の様々な対象に興味が及ぶ仕組みがある。生徒が実際に本書を元に学習して、驚いたり、関心したり、興味を見せたりする場面が目に浮かぶようだ。高所・局所両面で教育的配慮がなされている点が、この本の大きな価値であろう。高校普通科でも情報教育が必修になるが、本書のような授業で利用できるMathematicaの本が増えることは、情報教育の科学的な方向を充実させることにも繋がる。理数教育の発展のためにも、高校教育に利用できるMathematicaの本がより普及することを願ってやまない。

(大塚道明/群馬県立吉井高等学校)


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